本研究では、精神障害者の行動制限の中さも身体的拘束に注目した。「身体的拘束に関する看護師の葛藤および対処行動」について、精神科病棟と一般科病棟を比較検討することにより、精神科における身体的拘束の特徴を明確化することを目的とした。 H15年10月から12月に渡り、某大学病院の精神科閉鎖病棟、消化器内科病棟において、クリニカルラダー・レベルIIに相当する臨床能力を持つ看護師(臨床経験年数2〜5年)10名に、拘束に関する葛藤について半構成インタビューを行った。インタビューは、日頃の拘束場面を想起してもらい、拘束開始時、継続時、解除時の3期に分け、そこに生じる葛藤について語ってもらった。対象者了承の元で録音して逐語録にし、葛藤内容を読みとり、葛藤とそれに関連した要因を整理した。 その結果、精神科と消化器内科に共通の葛藤は、「人を縛ることのつらさ」のような情緒的なもの、拘束適応を判断する妥当性に関するもの、患者の「安楽」と「事故リスク」との間に生じる葛藤などが語られた。精神科に特有な葛藤として、精神保健福祉法に関連した医師との協働に関するもの、精神疾患による患者の病理性と患者看護者関係に関するもの、暴力行為、自殺に関するもの等が語られた。消化器内科に特有な葛藤として、ターミナル期の患者理解に関するもの、一般科での精神病理の取り扱いに関するもの等が語られた。そして、葛藤は複数の要因が絡み合って生じ、患者状況や病棟文化が関連していることが推測された。 また、拘束開始時には、拘束による患者の苦痛や情報収集不足に関連した葛藤、解除時には事故リスクに関連した葛藤が語られ、継続時には葛藤は少ないことが明らかとなった。また、各期とも、葛藤への対処を効果的に行うことで拘束を最小限にしていくことができると考察された。
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