本年度の研究は、以下の問題意識を背景として取り組んできた。近年の情報技術の進展により後発国である中国でも日本と同等の金型を供給できるようになってきており、日本金型産業のこれまでの絶対的優位性は揺らぎはじめてきている。このことの含意は、高度な熟練・技能の蓄積なしでは不可能とされていた金型技術が、情報技術がそれに代替可能な技術になりつつあることを示しているということである。 そこで、本年度では、中国における主要な経済発展地域である上海を中心とする揚子江デルタ地域を研究対象とし、とりわけその中でも外資系企業の進出が激しい蘇州地域を中心に金型ユーザー企業の実態調査をおこなうことにより、現地での金型の技術水準について調査をおこなった。この研究調査によって得られた含意が以下の3点である。 第一に、3次元エンジニアリングシステムの発達により、日本で蓄積された金型製造ノウハウが利用できるため、現地の金型メーカーにおいても日本と遜色のないものができるということである。しかし、一方で、こうした技術を設備できる企業は旧来の国有企業、集団企業の一部であり、末端の郷鎮企業も含めると、全体として技術水準が高いというわけではない。故に、第二に、高精度なもの、非常に高い品質を有するものに関しては依然として、日系、台湾系企業等の外資系企業から調達する仕組みになっている。しかし、第三に、日本から中国への技術移転をみた場合に、開発型、第一型は日本のメーカーにつくらせ、第二型以降はその図面を使用して現地メーカーにつくらせるというケースが多い。このことは、日本の金型メーカーのノウハウ流出として問題となっており、対策も含めて今後詳細に調査しなければならない課題である。以上の研究成果は、「中国進出企業(製造業)の実態と技術水準」『経済論集』第40号、2003年3月として公表している。
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