研究概要 |
本研究の目的は,動作分析法を用いて高齢者の歩行における力学的エネルギー利用の有効性について検討し,(1)その決定要因をバイオメカニクス的に明らかにすること,(2)エネルギー論的観点から高齢者の歩行能力評価の可能性を探ることである.61〜86歳の健康な高齢男性25名(74.5±6.7歳)に歩行路上で4種類の速度での歩行(自由歩行,緩歩,速歩,最速歩行)を行わせ,側方から高速度VTRカメラで撮影を行なった.また,歩行路に埋設したフォースプラットフォームを用いて歩行中の支持脚に作用する地面反力を測定した.実験により得られたVTR画像を解析用VTRデッキから画像処理ボードを介してパソコンに転送し,ディジタイズにより矢状面における身体各部の2次元座標を算出した.身体を剛体リンクモデルにおき,身体各部の座標値と地面反力データより逆動力学解析法をもちいて,下肢のキネティクス変数を算出した.その結果,現在までに高齢者の歩行について以下のような知見を得ている. 1.足関節では離地前の正のパワー発揮(足底屈筋群のコンセントリックなパワー),膝関節では接地直後および遊脚期の負のパワー発揮(膝伸展筋群および膝屈曲筋群のエキセントリックなパワー),股関節では遊脚期の正のパワー発揮(股屈曲筋群のコンセントリックなパワー)が大きかった. 2.歩行速度の増加にともない正および負仕事のいずれにおいても,足関節の貢献度が小さくなり,膝および股関節の貢献度が大きくなる傾向がみられた. 3.歩行速度の増加にともない力学的エネルギー利用の有効性が低下する傾向がみられた. 15年度は研究を継続して行い、青年男性(対象群)について同様の分析を行う.高齢者と青年の分析結果を比較することにより,高齢者の特徴を明らかにし,高齢者の歩行能力の評価方法について検討する予定である.
|