体育社会学や体育史で蓄積されてきた知見をもとに、スポーツ政策の捉えてきた射程を【近代国民国家体制のもと国民教育として用いられたスポーツ⇒戦時体制のなかでの国民馴育の手段としてのスポーツ⇒高度経済成長政策のもたらす矛盾の激化するなかで、福祉国家論を補強するイデオロギーとしての役割を担ったスポーツ】という文脈から整理するとともに、現在、全国の自治体を巻き込んで展開されようとしている総合型地域スポーツクラブの動向とその課題について浮き彫りにした。なかでも1970年代に三好や森川らが展開した、経済成長を中心に据えた政策の成功の裏側で国民の生活に様々なしわ寄せがゆき、それらを補完する政策としてスポーツが安易に担ぎ出され、政治的に利用され始めたことに対する「警告」は依然として超克されておらず、現在においては、むしろ総合型地域スポーツクラブの全国的な推進という潮流のなかで加速する傾向があることを明らかにすることができた。 しかしながらその一方で、断片化する部族同士の交流をどのように活発化していくのかという途上国の開発問題に対して、スポーツは多くの可能性を有していることも明らかにすることができた。とくにヴァヌアツにおいては、スポーツで形成されるネットワークが部族や世代の壁を乗り越えて新たな人間関係を構築している事例を確認することができた。多くの部族から構成されるヴァヌアツでは多様な人々をどのように束ねていくのかといった、いわゆる社会開発が火急を要する問題となっており、そうした途上国の社会状況のなかでは、日本が経験してきた「コミュニティ・スポーツ」のコンテクストとは異なるかたちで、スポーツを積極的に振興していく政策的な意義があることを示唆することができた。
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