研究概要 |
運動パフォーマンスは様々な要因により決定される。体温や脳内の神経伝達物質もその重要な要因の一つとして考えられている。本研究の目的は、テレメトリー法とマイクロダイアリシス法を用い、無麻酔ラットの視索前野/前視床下部(preoptic area/anterior hypothalamus, PO/AH)の神経活動を抑制した際の体温変動から、運動時の体温調節機構におけるPO/AHの役割を検討することである。Wistar系雄ラットを3週間のトレッドミル運動に慣れさせた後、腹腔内にテレメトリーを埋め込み、2週間の回復後、PO/AHにマイクロダイアリシスプローブを挿入した。テレメトリー法により運動中の深部体温、心拍数(熱産生系の指標)を測定した。また、尾部の皮膚温(熱放散系の指標)も同時に測定した。以下の成果が得られた。 運動時の体温は運動開始後20分で約1℃の上昇であった。その後、熱放散の促進により体温上昇度は緩やかになり高い値で維持された。PO/AHの神経活動をtetrodotoxin(TTX)により非選択的に抑制すると、運動中の体温は急激に約1℃上昇した。熱放散系の指標である尾部皮膚温は約5℃抑制され、熱産生系の指標である心拍数は約50拍上昇した。これらのことから運動時におけるPO/AH神経活動の抑制による体温上昇は、熱放散機構の抑制と熱産生機構の促進(脱抑制)が同時に惹起されたものであることが示された。またTTX灌流によるこれらの体温調節反応はPO/AHに限局されたものであり、他の部位では観察されなかった。以上のことから、運動中のPO/AHは体温調節中枢としての重要な機構的役割を担っていることが示唆された。なお、PO/AHの神経伝達物質でのリアルタイム測定を行ったが、実験装置や実験プロコールに問題があり信頼できる結果は得られなかった。これらについては現在検討している。
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