本研究では、昨年度、月経周期が正弦波状運動時の呼吸循環、体温などの各種生理機能の応答に及ぼす影響を検討した結果、心拍数の振幅応答は卵胞期より黄体期の方が悪く、体温維持能力は黄体期の方が低い傾向があることを明らかにした。今年度は、そのような月経周期による生理機能の応答性の差に対する月経周期に伴って生じる体温の変動の影響を検討することを目的として、健常男性に運動強度が酸素摂取予備量の10〜60%間を正弦波状に変化する運動を通常体温条件と高体温条件で各1回行なわせ、心拍数や体温の応答を両条件間で比較した。運動は8分周期で、続けて4周期行った。高体温条件では、運動負荷試験前に水環流スーツを用いて平均皮膚温を35℃から38℃に上昇し、38℃を皮膚血流量の増加や発汗が起こらない範囲(約20分間)で保持し、その後35℃に戻した。測定項目は、平均皮膚温、心拍数、酸素摂取量、主観的運動強度、食道温、前腕皮膚血流量、および前腕皮膚温であった。各測定項目について、1運動周期に対する平均応答曲線を求め、振幅および運動負荷曲線からの位相遅れ時間を計測した。 主な結果は以下の通りである。 1.高体温条件では、加温によって食道温は0.1〜0.45℃上昇したが、運動負荷試験開始時の食道温は加温前のそれと明確な差はなかった。 2.全測定項目において、振幅には両体温条件間に明らかな差はなかった。 3.位相遅れ時間は、心拍数、主観的運動強度、および食道温において、高体温条件の方が長い傾向があった。他の測定項目には明らかな差はなかった。 以上のことから、月経周期による心拍数や体温の応答性の差は単に体温の影響では説明できないことが考えられた。しかし、この点については、今回は運動負荷試験時に明確な体温上昇が起こっていないことから、さらなる検討が必要であろう。
|