【目的】本研究の目的は、低酸素環境と水中環境を併用した運動処方が心血管機能・代謝機能に及ぼす影響について明らかにし、特殊環境を利用した健康体力増進プログラム開発の基礎資料を得ることであった。 【方法】被検者は特に疾患を有さない成人12名(26±6歳)であり、平地群と高地群の2群に分けられた。平地群は通常環境下で、高地群は海抜2000mに相当する低圧低酸素環境で、それぞれ6週間のトレーニングを行った。トレーニングは、開始後2週間を運動無しの環境曝露のみとし、後半の4週間を50%VO_<2max>に相当する強度での水中運動とした。尚、運動は1回30分間とし、1日1回(高地群は1回3時間の低酸素環境暴露)、週4日とした。トレーニング前、開始2週後、6週後に、最大酸素摂取量、同一最大下運動時の心血管応答、血液性状について測定し、効果を評価した。 【結果及び考察】2週間の環境曝露後、全ての指標において有意な変化は認められなかった。また、最大酸素摂取量、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値については、4週間の運動トレーニング後でも変化はなかった。一方、最大下運動時の心血管応答は、両群共に1回拍出量、心拍出量が増大し、平均血圧が低下するという運動効果が得られたが、この傾向は特に高地群で顕著であった。また、血中脂質については、総コレステロール、HDL、LDLには変化が認められなかったものの、遊離脂肪酸は高地群において顕著に上昇した。以上の結果から、高地群では末梢血管抵抗の減少に起因する血圧低下に加え、心臓負担の軽減による一回拍出量、血流最高速度の増大といった心血管機能向上に対する好影響が示された。さらに遊離脂肪酸の増大から脂質代謝の亢進も推察され、高地における運動処方は生活習慣病予防・回復に対して、平地よりも効果的であることが示唆された。
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