研究概要 |
本研究は,姿勢の違いによって血管径と血流速度がどのように変化するかを明らかにするために,身体の異なる部位にある末梢血管を対象として,両パラメータと姿勢との関係を明らかにすることを目的とした. 対象は20歳代の成人女性10名であった.測定部位は右側の頸動脈,上腕動脈,大腿動脈,膝窩動脈および大動脈とし,安静時仰臥位と立位時の血管径(B-mode法)と血流速度(超音波ドップラー法)を測定(HP8500GP, HP Sonos1000)した.頸動脈,上腕動脈,大腿動脈,膝窩動脈については7.5MHzのプローブを用い,大動脈については2.5MHzを使用した.立位での測定は,はじめに仰臥位で10分間安静にし,その後立位姿勢をとった.測定は立位姿勢15分後に行った.計測はまず超音波Bモード法にて縦断画像を撮影して血管内径を心周期に同期させ収縮期,拡張期に分けて,一画面上で4箇所の計測を行い,その平均を代表値とした.血圧は心臓レベルにて測定した. その結果,心臓レベルでの平均血圧は立位時(89.0±4.2mmHg)において仰臥位(80.7±3.5mmHg)より有意(P<0.01)に高い値を示した.血管径は頸動脈については立位時より仰臥位の方が高い値(立位;5.2±0.1mm,仰臥位;5.4±0.2mm)を示し,その差は有意(P<0.01)であった.その他の血管では姿勢による径の変化はみられなかった.平均血流速度は上腕動脈では,仰臥位の方が立位時より有意に低い値(立位;25.9±3.1cm/s,仰臥位;12.7±3.1cm/s, P<0.01)であった.血流量は心臓より高い場所に位置する頸動脈では,仰臥位に比べ立位の方が低い傾向を示した(P=0.09).一方,心臓より低い場所に位置する骨格筋の血管,特に,上腕動脈と膝窩動脈では立位の方が仰臥位の時よりも血流量は高い値を示した(上腕動脈: P<0.05).これらのことをまとめると,姿勢の相違が各部位の血管に及ぼす影響は,血管の大きさではなく,心臓との位置関係により異なるのではないかと考えられた.
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