スポーツ選手にとっての怪我、及びそれに伴う痛みは、競技者としてのアイデンティティーを危機的状況にさらしてしまう危険因子である。これらの現象を通して非言語的に語られる意味合いの検討は、これまので研究の視点としては存在しなかった。よって本研究では、身体から表現される怪我や痛みといった現象と、競技者の心的内面葛藤との関係性を検討することを目的としていた。平成14年度に行われた研究1では、横断的な質問紙調査により、怪我や身体の痛みの経験と心理・行動変容に焦点化し検討がなされた。 調査内容としては、以前に本研究者が作成した3つの尺度(リハビリテーション過程での心理的変容に関する尺度、リハビリテーション過程でのソーシャルサポートに関する尺度、リハビリテーション過程での行動変容に関する尺度)に加え、競技、及び怪我に関するSCT(文章完成法テスト)、競技キャリアの中で最も重症であった怪我に関する詳細な情報(診断名、発生状況、認識する原因、怪我の傾向など)についてであった。 主な結果としては、より重度の怪我を負った経験のある競技者ほど、健全な選手への羨望感が高く、復帰後への大きな不安、緊張を大きく抱いており、リハビリテーション過程における身体的な課題に専心できない傾向が高いようであった。また、付加的に収集されたSCTから見ると、競技生活そのものに対しては「生き甲斐を与えてくれる」といったようなポジティブな感情を抱いているものの、「試合中での危険な状況を避ける」、「自分の身体は元どおりにはならない」といったような非常にネガティブな記述が多く見られ、怪我が内面に与える影響の重篤さを示唆することが確認された。
|