非代謝性糖類似体の2-deoxyglucose(2DG)は筋内に取り込まれた後、リン酸化されて2DG-6-phosphate(2DG6P)として蓄積する。平成14年度の研究においては、ラットepitrochlearis(EPI)筋における2DG6P蓄積速度を評価することによって、放射性同位元素を使用せずに筋の糖取り込み速度を測定する方法を確立した。ラットに激運動を負荷した後、高糖質食を摂取させるとEPI筋においてグリコーゲン超回復が生じるが、15年度の研究では、このグリコーゲン超回復筋でインスリン刺激時の糖取り込み速度(インスリン感受性)が低下することを確認した。 さらに、本研究では、グリコーゲン超回復筋におけるインスリン感受性低下に遺伝子発現が関係しているとの仮説にもとづいて実験を進めた。グリコーゲン超回復筋における遺伝子発現をGene Chipを用いて検討したが、この筋では16種類の遺伝子発現が3倍以上に増加していた。それら遺伝子の中で、発現増加が最も著しかったものはEST197038であり、16.5倍にも発現量が増加していた。このEST197038は、Human GO/Gl switch proteinと高いホモロジーを示す遺伝子である。この遺伝子はリンパ球の細胞周期移行に何らかの役割を果たしているようであるが、グリコーゲン超回復筋における発現増加の意義は不明である。また、グリコーゲン超回復筋ではEST189309の発現が6.2倍増加した。EST189309は非レセプター型チロシンフォスファターゼであるprotein tyrosine phosphatase(PTP)-H1と高い相同性を示す。PTP-H1の発現増加は筋内に脂肪蓄積を引き起こす可能性があり、これが、インスリン感受性低下の一因かもしれない。
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