本研究の目的は、ボーダレス化時代の地域スポーツ振興において、多岐に渡る当該関係団体が存在する中、敷居の低い組織として、また地域スポーツ振興のポータルサイトとして、総合型地域スポーツクラブがどの様に組織間関係をもたらし、「実体のある組織」へと発展を遂げるのかという組織の成長過程に着目し、組織学習論の視点から当該関係団体のコンピタンスの結束とシナジーの創出のために果たす総合型地域スポーツクラブの役割を探究することを目的とする。組織学習論は、組織の成長・発展・変革といったダイナミクスを、組織自体の主体的プロセスから解明する理論である。本研究では、その立場に立脚し、地域スポーツ振興についてそれぞれの当該関係団体が培ってきた過去の経験を、現在及び未来の行動の処方箋として役立てるための組織知に変換するダイナミックな社会システムとして総合型地域スポーツクラブが「実体のある組織」としてどう機能するかについて探究する。同時に、組織間関係に基づく経験の解釈とコミュニケーション、また個々の組織が有する経営資源やコンピタンスの結束による新しい知識の創造をめざし、クラブ組織がどう発展すべきかを組織の生成・成長・発展・変革という縦断的な視点から分析を試みる。具体的には、総合型地域スポーツクラブを育成する地域に焦点を当て、クラブ組織の組織行動をその成り立ちから、行政機関、スポーツ少年団、学校運動部、既存クラブ、種目団体、体育指導委員、体育協会、レクリエーション協会、また青少年の健全育成や高齢者の福祉問題に携わる様々な地域の当該関係団体などとのコミュニケーションや組織間関係、クラブ組織が積み重ねてきた歴史的背景や経験といった観点から詳細に紐解く。 本年度は、平成16年度に創設された町の総合型地域スポーツクラブと2年目を迎える村の総合型地域スポーツクラブと3年目を迎える市のスポーツクラブを対象に、関係者へのヒアリング調査および質問紙調査を実施し、クラブ組織の組織行動など組織の生成・成長・発展について分析を行った。本研究は、クラブ組織が存在する地域の人口規模やクラブ設立の背景、創設時の運営母体、既存のスポーツ関連組織とのネットワークなどが異なる地域をケーススタディとして分析し、組織学習論の主体的プロセスを踏まえながら価値連鎖を構築していく様相を解明する一助となった。しかし、3年間では発展から変革へと進んでいく過程を分析するに至らず、今後の研究課題として継続していきたい。
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