研究概要 |
聴覚障害者を対象とした運動能力についての研究や平衡機能についての研究では、いずれも健聴者と比較して低い傾向にあることが示されている。聴覚障害者と健聴者との差は、どこから始まっているのだろうか。先行研究より、文部省(現・文部科学省)が毎年実施している体力・運動能力調査結果と同年代の聴覚障害児・者の結果との比較から、種目によっては小学校低学年から優位な差が認められることが指摘されている。このため、小学校入学以前の聴覚障害幼児を対象とした運動能力テストおよび平衡機能測定を実施し、この年代における実態を把握することは非常に重要だと思われる。 そこで、本研究は、聴覚障害幼児の運動能力および平衡機能を測定し、そのスタンダードを作成すること。さらに運動環境を含む生活環境との関連を検討し、聴覚障害者と健聴者との運動能力の差が何に起因するのかについて明らかにすることを目的とし,3年次計画で遂行している。 本年度は3年次計画の2年目として,平成14年度中に協力対象校として登録された全国の聾(ろう)学校幼稚部を対象として,全国規模の運動能力テストを実施し,聴覚障害幼児の運動能力に関する資料収集を行いデータベースを作成することを中心に研究を進めた。なお,この全国規模の運動能力テスト実施に当たっては,事前に保護者および対象校に研究の趣旨を説明したうえで研究協力可能であるとの回答を得た幼児の中から対象児を抽出して実施した。 その結果,走,跳という運動の基礎的な能力には,男性優位傾向があるものの,健聴幼児に認められるような明らかな性差が認められないことが示された。今後は,生活環境などの要因との関係について詳細な検討を加えながら,同一対象児童の縦断的な変化についても追跡していく。 なお,研究成果の一部は,医療体育研究会およびアジア障害者体育・スポーツ学会において発表した。
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