平成14年度は、日本最大の肉用牛飼養地域である北海道を対象に、牛肉の生産・加工・流通の実態とBSE対策事業の実施状況を把握することにつとめた。日本で確認されたBSE感染牛はすべて酪農家の廃用牛であったこと、またBSE感染牛7頭中5頭が北海道で出生した牛であったことは、道内の肉用牛生産者・食肉流通業者の経営を大いに圧迫した。折から雪印食品の牛肉偽装事件も重なり、消費者の牛肉不信に危機感をつのらせた行政や畜産・食肉業界の各団体は、道産牛肉の安全性確保と消費者への情報公開に向けて独自の活動に取り組んだ。 全道の肉用牛の38%を飼養する十勝支庁管内においては、肉用牛生産は100頭から2000頭規模の大規模農家によって担われており、乳用種・交雑種・黒毛和種のうち2種類以上を組み合わせた経営も多い。管内の肉用牛の大半は、日本第2位のと畜処理能力を有し、独自の脊髄除去法を採用している十勝総合食肉流通センター、ないし2農協が所有する食肉加工センターでと畜・加工されている。管内での食肉加工率が高く、従来から銘柄牛肉の産直が行われていたことは、十勝産牛肉のトレーサビリティの構築に有利に作用している。農協単独でも、BSE発生後いち早く消費地のスーパーでの販売促進を行ったり、Web上で牛肉生産履歴情報を公開するなどの活動が見られる。 また十勝管内独自の取組みとしては、行政、農業団体、食肉流通業者の3者からなる「十勝牛肉PR実行委員会」が、首都圏の食肉流通業者や消費者に対して積極的に安全性のPR活動を行っていることが挙げられる。 現状では国が目指すトレーサビリティシステムと、畜産・食肉業界にとって合理的な個体管理法の間にはかなりの隔たりがあり、牛の個体情報を流通の各段階でどう共有し、消費者にいかに開示するかいまだ試行錯誤の段階にある。
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