本年は最終年度として、各地の淡水性潟湖に成り立っていた伝統的環境利用システムと共同体的資源管理体制について、これまでの調査の総括と比較考察にあたった。本研究が調査対象としてきたのは、琵琶湖岸及び日本海沿岸に形成された潟湖であったが、本年は特に日本海沿岸の八郎潟を中心として史料調査・聞き取り調査の補完にあたり、水辺エコトーンの多様な生物資源を利用した伝統的生業活動と、その生態系への影響について考察した。 また琵琶湖岸の淡水潟湖「内湖」における共同体的資源管理について、初年度以来のエリとヨシ地用益権に関する調査・考察を続行した。その結果、「水辺のコモンズ」の形成が中世までさかのぼり、そこに成り立つ資源へのアクセスに関する社会的規制も、村落共同体の形成と崩壊に密接に関わっていることが明らかとなった。この結果については、現在、論文にとりまとめて学会誌へ投稿中である。 以上のように、本研究では、「人間を含んだ水辺の生態系」としての潟湖の全体像を検証し、それが人間活動とのバランスの上に保たれた「二次的な自然」であったことを明らかにした。今後の水辺エコトーンの保全にも、人間の手を完全に排するのではなく、適度な関わりをどのように保っていくかという視点が必要となる。環境利用の民俗文化や共同体的資源管理は、今後の水辺の保全と利用を両立させていく上で、一つの基準を供するものと考える。 なお、本年度の研究成果については研究会で口頭発表の上、二本の論文として発表した。
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