研究概要 |
平成14年度は,原風景に関する問題を中心に研究を行なった。研究遂行の中心は,人びとの抱く風景観の収集とその分析であった。報告者は,調査対象として青年層と中高年層それぞれ15名程度を設定し,それぞれの年齢層がどのような風景観を抱いているかを,自由記入アンケートと聞き取りから明らかにした。その際に,報告者の当該研究の趣旨にしたがって、単純な原風景という概念は設定せず,「好きな風景」あるいは「印象に残っている風景」というかたちで,できるだけ調査対象者の自由な風景観が得られるような資料収集の方法を試みた。その結果,いろいろな風景観が集まったが,とくに青年層と中高年層で大きな違いが見られた。それは,中高年層にとって風景はあくまで自然環境に対する視覚的なものであるのにたいして,青年層の風景はかなり多様であることであった。青年層の風景は,かならずしも視覚以外の感覚で捉えられる風景というだけでなく,むしろ日常のあらゆる「光景」というべきものであった。そこには,メディア世代のポストモダン的なイメージ感覚があることが予想される。そこで報告者は,そうした把握が妥当かどうかを,より詳細な資料収集から明らかにしようと試みた。すなわち青年層5名に一年間にわたって風景についての日記をつけてもらい,そこから彼らの風景意識を探るという方法を用いた。この調査の結果,記憶の中で高度にイメージ化された原風景的な風景観だけでなく,日常レベルでの現実味のある風景意識が得られた。それを現在分析しつつあるが,そこには風景を身体性に基づい創造行為とする視点が見られる。そのなかでもとくに,自己の内面的・実際的体験が風景に投影されている場合と,四季の変化を身体感覚的かつ擬人的に捉える視点とが多い。したがって,風景が自己表現のメディア(媒体)である可能性が明らかになったと言える。
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