研究概要 |
本年度は昨年度に引き続きスペイン・バスク自治州を中心に現地調査を実施した。バスク自治州の州都ビトリアおよび州北西部の中核都市ビルバオを拠点として,デウスト大学,バスク自治州政府,バスク統計局を訪問し,現地の地理学者や言語政策担当者らと情報交換を行い,さらに,文献,統計,地図などの基礎資料を収集した。また,スペイン国土地理院から数値地図を入手し,分析用のベースマップの作成を現在進めている。 近年のバスク自治州におけるバスク語人口の増加が,同州における言語空間構造の変容を引き起こしているという状況は,昨年度の研究成果からも明らかである。バスク語人口増加に代表される逆行的言語シフトは,初等教育におけるバイリンガル教育システムの導入や,マスコミや行政におけるバスク語使用正常化などの制度的要因によるところが大きい。 近年におけるバスク語人口の増加は,バスク自治州における住民特性の最近の変容にも反映される。州センサスデータを利用した住民特性の分析では,住民の出自や言語属性に代表される「社会的出自」の次元,年齢階層や世帯構造に代表される「家族の生活周期」の次元,さらに「社会・経済的地位」の次元の主要三次元が抽出された。さらに同次元の空間構造を91年と96年とで比較した場合,伝統的出自属性の影響を強く受ける地域の拡大傾向が確認された。社会的出自次元における伝統的属性の影響力増大は,近年の逆行的言語シフトの一側面を表象するといえる。 行政による制度的支援は自治州全域を対象に推進されるが,各地域によるバスク語人口増減傾向の差異の検証は今後の課題である。
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