研究概要 |
亜熱帯島嶼沖縄における山地小流域の水および土砂の流出特性を把握するため,沖縄島北部の小流域において水文観測を行った.調査対象流域は,流域面積0.23haの小流域で,地質は中生代の名護層千枚岩と第四紀の国頭礫層からなり,貫入試験を行った結果,特に尾根部で3mを越える厚い風化層が確認された.流域は約60%が林地で,残りは樹木が伐採され,一部は完全に裸地化している.現場で透水試験を行った結果,地表の透水係数は裸地では10^<-4>〜10^<-5>cm/s,樹木のある林地内では10^<-3>〜10^<-2>cm/sオーダーと裸地化することにより2オーダー程度の透水性の低下が見られた. 沖縄の降雨の特徴として,降雨強度が強いことがあげられ,調査期間中も,降雨強度29mm/10minをはじめとして侵食危険降雨である3mm/10minを越えるような降雨イベントが何回も観測された.水の流出特性について,電気伝導度を用いた降雨流出成分の分離によれば,早い流出成分が大部分を占めていたが,降雨イベントの流出率は20%前後と低かった.これは,流域内の林地と裸地では,地表の浸透能に大きな差があり,流出率の低さは,流域全体で見れば浸透能は高いということが関与していると思われる.一方,イベント流出に早い流出成分が多いということには,裸地では地表流が観察されるほど浸透能が低いということが関与している.溶存物質量の指標である水の電気伝導度は約30mS/mと,阿武隈山地や関東山地の堆積岩地域と比較して1オーダー高く,石垣島や西表島の非石灰岩流域においても,水の電気伝導度は同様に高かった.これは流域の化学的な削剥速度が速いことを意味し,亜熱帯沖縄で従来定性的にいわれてきたことを裏付ける結果となった.また,土砂流出量は,侵食危険降雨である3mm/10min以上の降雨回数やピーク流量に関係し,この3mm/10minという値は,裸地化した場所での透水係数にほぼ対応する.
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