前年度は、水溶性の栄養成分のうち、タンパク質(熱変性の影響を含む)・アスコルビン酸・グルコースについて、ラット小腸内膜に存在するβ-グルコシダーゼによるケルセチン配糖体の加水分解活性を検討した。その結果、いずれにおいても特筆すべき現象は観測できなかった。今年度は、脂質と糖質の種類に焦点をあてて、グルコース以外の糖質やタウロコール酸ナトリウムやビリルビンを共存させて脂質(リノール酸<LA>・フォスファチジルコリン<PC>を添加し、それらの影響を検討した。また、ケルセチン配糖体に関して、β-グルコシダーゼ加水分解活性そのものは昨年度のQ4'G(Quercetin-4'-glucoside)より低いが、幅広く食品に含まれていると言われているQ3G(Quercetin-3-glucoside)を用いた。 糖質に関しては、マルトース・ショ糖などでも特筆すべき阻害効果は得られなかった。グルコースは多く添加するほど酵素のフィードバック機構が働き、活性が阻害された。また、LAは平成13年度における日本人の平均脂質摂取量データから、20歳代女性の相当量を添加したところ、対照の25%まで加水分解活性が阻害された。また、PCを同量添加すると45.0%阻害された。そこで、この45.0%阻害を起こすレシチン添加量にマルトースを更に添加し、阻害活性を検討したところ、阻害活性は38.8%(マルトースのみは95.9%の阻害活性)であり、いずれの化合物を単独で添加した場合よりも阻害活性は低くなるという興味深い結果が得られた。これは、私達が食事の中でご飯やパンなどの食物とともにケルセチン(Q3G)の含まれている食品を摂取すると、共存している脂質が小腸における加水分解活性を阻害する可能性があることを示唆するものである。
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