申請者らが見い出した転写因子ChREBPは、肝臓における脂肪合成系の鍵酵素であるピルビン酸キナーゼ遺伝子の発現を顕著に活性化する。本因子による遺伝子転写活性は食餌条件により大きく変動する。昨年度までの研究で、肝細胞を用いた実験系においてChREBP活性は酢酸、オクタン酸、パルミチン酸の添加により著しく阻害されることを見い出している。そこで本年度の研究では、摂取栄養素の違い、特に今回は酢酸に着目し、酢酸によるChREBPの活性および脂肪合成系酵素遺伝子の発現に対する影響について検討した。長期間酢酸を腹腔内投与したラット肝臓からRNAを抽出し、ノーザンブロット法によりmRNAの発現動態について調べたことろ、アセチル-CoAカルボキシラーゼ、アセチル-CoA合成酵素1遺伝子、リンゴ酸脱水素酵素、グルコース-6リン酸脱水素酵素、クエン酸リアーゼなど脂肪合成系酵素遺伝子発現が一様に著しく減少していた。またChREBPの活性についてゲルシフト法によって調べたところ本活性もそれと同調して低下する傾向がみられた。そこで、過食により肥満と糖尿病を発症するモデルラットを用いて同様に酢酸投与に対する影響を調べた。その結果、生理食塩水投与群に比較して酢酸投与群では顕著な体重増加抑制、ならびに脂肪合成系酵素遺伝子発現の減少が見られた。さらに糖負荷試験による血糖値測定の結果、酢酸投与群では血糖値低下の速度が正常化していた。 以上よりChREBPは酢酸によって活性が阻害され、この活性低下は脂肪合成系酵素遺伝子発現を伴うものであるあることが明らかになった。
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