本研究では、様々な条件で漬けた梅干しの性状分析や、梅酢中の色素の構造変化を分析した上で、着色に影響を及ぼす因子を特定することができ、人工的に塩濃度や有機酸量を制御した梅干し漬けを作成できた。 様々な条件で梅干しを漬け、塩漬け条件や梅酢pHの違いによる梅の色、梅酢の性状などの色素成分の挙動を調べた。その結果、すべての塩漬け条件で実測pHが低くなるにつれて、色素の安定化が見られ、赤梅酢中の色素量や梅の果皮の赤味度が高値となり、pHと色素の安定性の間に相関関係があった。また、pH相違の原因と考えていた梅酢中の有機酸量については、経時的に分析してみると、塩漬け条件による差がなく、pH決定因子でないことが示唆された。有機酸は、主にクエン酸、リンゴ酸、酢酸が含まれ、それぞれ200〜220mM、25〜30mM、10〜15mM程度含まれていた。また、梅果皮や果肉より、色素成分を抽出し、梅組織に色素がどのように吸着、安定化しているかを調べた。梅酢中の色素成分の挙動を見るとマロニルシソニンの減少が大きいため、梅組織への吸着を予測したが、組織中にはシソニンの方が多く含まれていた。また、明らかに梅酢中よりも梅組織中にロズマリン酸が多く含まれていた。これまで、着色を阻害すると考えられてきた物質だが、添加すると色素の安定性が向上することが明らかとなり、梅組織への色素の吸着に関与が示唆された。これまで、赤色着色を阻害する原因として考えてきた梅酢pHの上昇は、梅に含まれる有機酸に依るものではなく、塩化ナトリウムの添加量が最も大きな影響を与えていることがわかった。
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