研究概要 |
納豆は、蒸煮した大豆にスターター(納豆菌胞子)を接種し、発酵・熟成、製品化したものである。昔から菌の接種は、80℃以上の高温、すなわち、胞子がヒートショックを受けた状態で行われている。それは、胞子が耐熱性であること、雑菌の汚染防止のためであることも一要因であるが、更に、高温下で菌を接種すると、胞子の発芽促進に有効であると見なされているためである。しかし、ヒートショック効果はまだ明確に証明されていない。そこで、市販スターターを用いて、胞子の耐熱性効果を検討した。 市販の納豆菌胞子4種(A社製菌,B社製菌,C社製菌,D社製菌)と研究室分離菌KFP419を用いた。胞子懸濁用緩衝液は8種類(D.W.,0.07Mリン酸緩衝液(PB)(pH7.0)、0.1M HEPES緩衝液(pH7.2)、0.1Mトリス-塩酸緩衝液(Tris-HCl)(pH7.4)、0.2%ファイトン、0.2%ラウリン酸モノシュガーエステル、0.2%ジピコリン酸、0.2%L-アラニン)を使用した。ヒートショックは、滅菌したバイアル瓶に10^8個/mlの菌液を入れ、各温度に設定したシリコンオイルバスで行った。ヒートショック後は氷水で急速に冷却した。原液を10^n倍希釈し、普通寒天平板培地の表面に塗抹後、37℃,24時間培養し生菌数を測定した。 納豆菌胞子の耐熱性試験の結果、90℃以下の加熱では胞子の生存数は増加も減少もしなかったが、100℃,5分間加熱で減少した。また、100℃,10分間の加熱でも同様な結果が得られた。90-100℃付近が胞子の耐熱性の境と言える。70℃で30分間経時的に耐熱性の効果を検討したところ、ばらつきが見られるものの、時間が経つにつれて死滅する傾向にあった。5-10分間をみると生菌数が上昇しているが、これはヒートショックの効果であるか不明である。 0.1M Tris-HClと0.1M HEPESと0.2%ファイトンで加熱すると耐熱曲線が緩やかで、他の緩衝液は時間と共に直線的に減少する傾向が見られた。D値を求めると0.1M Tris-HClと0.1M HEPESと0.2%ファイトンで値が大きくなった。0.1M Tris-HClと0.1M HEPESと0.2%ファイトンには胞子の死滅を遅くさせる因子があると思われるが、その時のpHは7.2-7.5でその程度のpHが良いことが示唆された。
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