九州地方において、副葬品を持つ弥生時代人骨の資料を収集した。副葬品目と性別の対応関係を検討し、武器副葬において女性と男性とに大きな相違点があることを明らかにした。女性には武器が副葬されることがきわめて少ないのである。 古墳時代でも、武器・武具の副葬は男性に偏りがあることが筆者の研究により明らかとなっていたが、その傾向は弥生時代にさかのぼることが判明したのである。武器副葬が女性に少ないことから、軍事に女性が関与したとは考えにくく、女性首長の盛衰は軍事権の重要性と相関があることが考えられた。 また、弥生時代には女性家長が存在するとされているが、副葬品を持つ女性の寛骨を調査したところ、90パーセント以上の確率で妊娠痕が認められた。このことから、彼女たちは臨時的な長として存在するのではなく、後継者を出産することが許容された普遍的存在であると考えられた。 また、特異な埋葬姿勢をする女性、特異な副葬品を持つ女性においても、寛骨に妊娠痕が認められた。これまで、卑弥呼に代表される女性祭祀者は、その霊力を保つために配偶者を持たないと解釈されていたが、弥生時代の祭祀者と考えられる女性も出産経験が認められた。卑弥呼らの未婚は、霊力とは関係がなく、むしろ親族構造に基づく可能性が高い。
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