本研究は以下の二つを目的とする。 1.実際の博物館における空気拡散を調査し、文化財への影響調査と除去の指針とする。 2.文化財への影響が懸念されているアルデヒド類の文化財への影響の有無の調査。 平成14年度はこの準備段階として、測定機器の購入・調整、基礎データ取得をおこなった。平成15年度はこれに続き研究をおこなったが、1に関しては実際の博物館が複合空間であること、および文化財に影響のないトレーサーガスの種類が限定されたため、シングルトレーサーによる減衰法を採択したことにより個別空間の空気交換率測定のみとなり、複数の空間にわたるボックスモデル法の適用が困難となった。2に関しては、顔料試料において含銅・含鉛顔料において顕著な変色および反応生成物が確認され、また、蟻酸塩だけでなく酢酸塩が確認されたことにより、ホルムアルデヒドのみならずアセトアルデヒドの文化財への影響が懸念されることが明らかとなった。ホルムアルデヒドのみへの曝露においても、酢酸塩、酪酸塩が確認され、これらの顔料が不均一触媒として働く可能性が示唆された。また、含鉛顔料に関しては光条件下における反応経路の違いも明らかとなった。金属試料ではニッケル、アルミ、銀などには影響がみられなかったものの、鉛、亜鉛に顕著な影響が確認された。しかし、本実験において、極微量濃度のアルデヒドへの曝露では影響がみられないものもあり、濃度条件に依存して閾値が存在する可能性もある。また、現実に影響が報告されている炭酸カルシウム(貝)への影響が確認されず、この原因解明も急務である。 本研究は、濃度依存、光依存による影響の差異を明らかにするなど一定の成果をあげたが、文化財への影響を総合的に評価するためには、マルチトレーサー法による精密な空気移動の把握、影響の定量的評価、濃度コントロールによる閾値の有無を加味することが必要であり、さらなる研究が必要である。
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