本年度は、まず授業を全体論的に展開する上で指針となる国内外の文献と、代数の導入過程に関する国内外の文献を収集し、代数の導入過程の授業設計に関する重要な視点を、文献解釈を通して抽出した。そこでは、主にGuy Brousseauの教授学的状況理論が、全体論の思想を実際の授業に実現する上での有力な理論になりうることを示し、また、生徒が代数を学習する意義を実感する上で、代数の歴史的過程や代数の心理発生的過程を踏まえた授業設計を行う必要性があることを議論した。また、実際のカリキュラムの概要も示した。 それと並行して、公立中学校の教師と共同で、4月から11月にかけての中学校1年の数学の授業を設計し、その授業をビデオに記録する作業を行った。その中から、本年度は「正負の数の加減の学習指導」について、データを分析して、全体論の立場からの授業展開のあり方についてまとめ、日本数学教育学会第35回数学教育論文発表会で学会発表を行った。 最後に、以上の2点を総合して、全体論的視座からの代数の導入過程の単元構成の構造に関する考察を行った。それについては、現在学会誌に投稿中である。 また来年度の研究を見据えて、生徒が困難を感じる文字と式の単元について、これまでの調査研究や、文献解釈によって、授業展開・単元構想のあり方について検討した。それについての論文は、上越数学教育研究第18号に掲載されている。
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