研究概要 |
本年度は、範例的教授・学習理論を支える「二面的開示の考え」に焦点をあて、二面的開示の視点からみた数学教授と教授過程の内省、二面的開示を促す数学的活動と問うことについて考察を行った。ヴァーゲンシャインのアスペクトカラクターに関わる論稿では、「私にとってのそれまでの自然の観方が変わること」(主観から客観へ)、「ある観方から自然や対象を据えている私を意識すること」(客観から主観へ)のように、主観と客観の相互作用により事象などの観方が深まっていくことが指摘されている。その背景には、二面的開示に基づく範疇的陶冶観がある。(大高泉,1999)二面的開示の考えとは、クラフキによれば「主観と客観との相互作用により行われ、客観の側では一般的な内容・本質的な内容が明らかたなることであり、それに即して主観の側では一般的な洞察・経験、即ち様々な内容を獲得するための範疇を身につけること」である。(渡邊光雄,1994) この二面的開示が「範例や範例的なものの意識」「範例的なものの表現・顕在化」「ものごとをとらえる基本的な枠組み(範疇)の獲得」「範疇の精緻化,内省を踏まえて改めて客観的にとらえること」の4つの段階の繰り返しによって行われると解釈した。さらに、4つの段階を徐々に深化させていくこととして、「問うこと」が存在すると、その「問い」としては「(a)□って何だろうか?(b)□を知っていると、どんないいことがあるのだろうか?(c)□を学ぶことが、私に何を語りかけてくれるのだろうか?」があると解釈する。特に、対象に相対峙する私を意識すること,私自身の行為や思考時動を内省することが,範疇の精緻化には不可欠である。 二面的開示が「問うこと」により促進されるという立場に立ち,算数・数学教育研究の視座から実証的((1))、理論的((2))双方の見地から研究を進めていった。 (1)子どもの「問い」を軸とした算数授業,その継続的な実践によって見いだされること、および観方の深まりを重視した有意味学習論に基づく継続的な数学授業を、特徴的な教授と数学的活動を明らかにしながら、可能性と陳腐を実証的に考察したこと。 (2)Second International Handbook of Mathematical Education(2003,Kluwer)を軸として、ドイツ教授学思想、「問うこと」、教授過程や教育実践の内省に関わる最新の数学教育研究を考察したこと。さらに、それらの研究と「二面的開示の考え」との接続を図ろうとしたこと。 (2)においては、Ruthvenによる理論と実践との関連づけ、Jaworski, et al.やZaslavsky, et al.による教育実践の内省過程などに着目している。範例的教授・学習理論、二面的開示の考えと、最新の数学教育研究との接続、および静岡県内で継続的に行われている特色ある算数・数学授業との関連を図ろうとしている。
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