本年度は、コミュニケーション行動の機能的使用に関する研究を中心に実施した。具体的には、社会的コミュニケーションに顕著な問題を有していた高機能自閉性障害の幼児1名を対象として、その問題を解決するための指導方法について、単一事例実験計画法に基づいて検討を行った。まずアセスメントとして、親と幼稚園教師に対する聞き取り調査、ならびに幼稚園での保育場面に関する行動観察を実施した。その結果、他の児童から嫌がられるような言動が問題とされていたことが明らかになった。具体的には、「逃げ回る相手を無理矢理追いかけ回す」「他児童が使用しているおもちゃ等を取り上げる」などであった。また勝負事については強い執着心を見せ、自分が勝てないとパニックを行うようなことも頻繁に見られた。これらの行動の機能分析を大学相談室において実施したところ、「他者からの注目」「(勝負に負けるという)嫌悪事態からの回避行動」として機能している可能性が示唆された。そこで指導プログラムとして、1)他者を賞賛する行動、2)他者を応援する行動、の2つに分けて、対象児童に対して援助しているための指導内容の検討を実施した。場面設定としては、大学指導室内において設定可能な競争的場面である「双六場面」および「リレー場面」の2場面を用いた。その結果、他者を賞賛する行動、ならびに他者を応援する行動が即座に成立した。また大学相談室だけではなく、そのような行動が幼稚園場面においても指導後に般化したことが、幼稚園教諭に対する質問紙調査で明らかになった。本研究の結果、これまで高機能自閉性障害児に対して標的とされることが少なかった、他者賞賛や他者応援が、機能分析によるアセスメント大学相談室での場面設定、および幼稚園教諭へのコンサルテーションを通じて成立することが示された。
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