国内の環境芸術における歴史的・社会的観点から評価の定まった事例を抽出し、設置経緯、経過について現地取材、関係機関に取材することを含め多角的に調査を進めている。設置された作品を通じ、改めて直接に鑑賞する意義を強く認識するとともに、その地の歴史(発展過程)、産業、地域文化との関係が、特に設置事業経緯や事業主側にあることが見受けられることが確認できた。これは環境芸術がその地域ごとに密接に関わりを持つことの証左であり、鑑賞教育を題材として扱う際の手立てとして重要な意味を持つと考える。つまり芸術作品を鑑賞する際、従来おこなわれてきたその作家が生きた時代やその前後の芸術的関連性から作品を鑑賞することに加えて、設置経緯やその作品が創出された背景に地域の歴史、特徴などとの密接な関係が存在しそれを鑑賞教育の題材として扱うことで今までとは異なる視点から鑑賞者と作品の関わりをつくることが可能となることを示すものである。このことは「総合的学習」や他教科(特に社会科)との連携の可能性を見い出すことも示している。また、生涯教育のような幅広い年齢層に応じたプログラムの組み立てにおいても重要な意味を持つと考えられる。 抽出事例 東京都立川市/東京都新宿区(東京都庁舎)/埼玉県さいたま市(さいたま新都心地区)山口県宇部市(宇部市教育委員会)/広島県瀬戸田市/神奈川県秦野市/愛知県三好町 研究を進める過程で環境芸術をモニュメントや壁画などのいわゆる「彫刻」の概念のなかに限るのではなく、歴史的な意義を持つ建築物や「場所(地域)」を環境芸術の題材として鑑賞教育と結びつける視点を設ける必要性を感じてきた。これは「環境芸術とは何か」、ひいては「芸術とはなにか」といった美術教育の中で扱うことが難しいテーマにおいて、一つの重要な糸口となると予想される。 例 広島平和公園/大原美術館/平和の礎(沖縄平和祈念公園)など
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