研究概要 |
研究のフィールドをハワイの小学校とした。ハワイにおいてはアメリカ本土とは異なり「メルティング・ポット」的な状況と「サラダ・ボウル」的な状況とが併存することを論じた。ハワイにやってきた多くの民族はハワイ独特の「ローカル」文化を形成し共有しながら,同時に各民族が祖先から受け継いでいる固有の文化を維持してもいる,ということである。こうした多人種・多民族が共存する社会は,いかなる教育によって形成され支えられているのかということが,本研究の課題とされた。 実践の観察は,ハワイ州の小学校において中心教科とされ,社会科と極めて密接な関係をもっているLanguage Artsを対象として行い,とくにエクイティの要素に照らしながら分析した。「形式的平等」と「実質的平等」,「形式的扱い」と「実質的扱い」との間のバランスにどのような配慮がなされているか,という観点に立って作業を進めた。 考察の対象として取り上げたのは二人の教諭の実践である。一人の教諭の実践では,「形式的扱い」に偏った「偏見の存在の確認」をし,その偏見を「実質的扱い」の重要性に気づかせることによって軽減したり,多面的考察や多面的解釈の導入により,「形式的扱い」と「実質的扱い」の両方を事象把握に取り入れたりして,究極的にはエクイティの内面化を図っていることが明らかとなった。 もう一人の教諭の実践については,アメリカ史の学習,なかでも南北戦争後の南部の再建にかかわって,黒人に対する差別的待遇をテーマとした二大判決を取り上げた実践を対象として検討を加えた。検討によれば,「形式的平等」と「実質的平等」とを交互に行き来するような形式で児童らに考察させエクイティの内面化を図り,結果としてそのことは多面的考察につながっていることが明らかとなった。 勤務校の異なる二人の教諭のLanguage Artsの授業において,「形式的平等」と「実質的平等」,「形式的扱い」と「実質的扱い」との間を行き来する形によるエクイティの認識の深化,および多面的考察の重視という共通性が見いだされた。このことから,これらがハワイの小学校で観察された文化理解のためのアプローチと考えられる。
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