本年度は、研究開始年度として、その目的と方法を明確にするために必要な基礎資料となる文献の収集を中心に進めた。具体的には、イメージに関する基礎文献として、C・S・パースの記号論、サルトルのイマージュ論、ピアジェの発達理論、多田俊文の映像と認識に関する理論を整理した。さらに、子どもの「イメージの発達と表現の指導」の先駆的実践としてN・R・スミスの先行研究を確認した。基礎文献の整理によって、イメージにおける受動性と能動性、再生性と予期性の構造が明らかになった。また、子どもの絵とイメージの発達段階について、動作、しるし、要素、デザイン、シンボル、イメージ、隠喩というキーワードによる整理の必要性が明らかになった。さらに、感情表現に関わる最新文献として、F・ポヤトス著の「Nonverbal Communication across Disciplines」(2002)、Z・ケベセス著の「Metaphor and Emotion」(2000)、A・アサナシャドウ編の「Speking of Emotion」(1998)の翻訳を通して、視覚イメージ力についての理論の整理を行い、感情の概念化について文化的多様性を考慮する視点を得、深層レベルにおける個々人と環境のインタラクションを視野に入れる必要性が確認された。また、研究遂行にあたって小学校現場での美術教育の実態を把握するために、先進的な実践が行われている都心の造形教育研究会に参加し、子どものイメージ力という観点から授業観察を行った。この調査によって、イメージ力について調査を行う際の視点と授業構築の視点を確認することが出来た。すなわち、子ども同士の関係性、環境との関わり、メディアの視点である。
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