本研究では、癌死亡データから環境中の癌危険因子、医学の進歩などの時代背景に関係する因子そして体内の免疫システムの加齢による変化などに関係する因子を抽出し、その趨勢を把握するための統計モデルを構築し、モデルに含まれるパラメータの最尤推定量に関しての存在性、一致性そして推定可能関数を明らかにした。また、日本女性についての乳癌死亡データヘこのモデルを当てはめた結果を示すことにより、このモデルを用いた癌死亡データ解析の有効性を示した。 癌、とりわけ乳癌については、年齢や遺伝に関わるものが発病の大きな因子として認められてきたが、近年は環境中から体内に摂取される危険因子の影響に注目が集まっている。このモデルによるデータ解析は、臨床や動物実験によってだけではなく、疫学的観点からも環境中の危険因子の影響の大きさを見出し、その趨勢を把握することに役立つと考えられる。また、統計モデルとして非線形ポアッソン回帰モデルの範疇に属するこのモデルは、通常このようなデータ解析に用いられる「比例ハザードモデル」を超えた「複雑モデル」の一例として、新規性を備えたものと考えることができる。 実際のデータ解析における環境因子の推定値の趨勢は、近年の中高年乳癌死の急増が、数十年前から現在に至る環境中の癌危険因子の増加によるものであることを示唆していた。また、年齢に関わる因子の推定値の趨勢からは、加齢に伴う免疫力の低下と発病の関係を読み取ることができた。さらに、時代に関わる因子の推定値の趨勢からは、医学の進歩によって乳癌死が減少していることを読み取ることができた。 今後は、海外のデータを入手、解析することにより、このモデルの有効性をより確実に示すとともに、解析結果の国際比較を行うことを目標とする。 以上
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