乳癌研究の分野では、初潮から閉経までの期間など、年齢に関係する要因が知られている一方、環境中のリスクへの暴露が何年も後になって病気の要因となりうることが認められるようになった。そこで、本研究では、年齢に関わるリスクと環境中のリスクの両方の趨勢を同時に見るために、年齢×時代区分別乳癌死亡率における環境効果の概念を導入した。また、乳癌死亡率の対数を年齢効果と環境効果の線形関数で表す年齢-環境モデル(Age-environment Model)を提案した。 環境効果は、時代効果やコホート効果と呼ばれるものと異なる意味を持っているが、計画行列の列空間の意味では、このモデルが、これまで(年齢×時代)データの解析に頻繁に用いられてきた年齢-時代-コホートモデル(Age-period-cohort Model)に含まれることを示した。しかしながら、日本と北欧の4国(ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマーク)で得られたデータの解析では、年齢-環境モデルは、AICの意味で、年齢-時代-コホートモデルより良い当てはまりを示した。 最尤法によって推定された環境効果から、日清戦争、第2次世界大戦、高度経済成長時代に対応した高いリスクを読み取ることができた。また、北欧4国のデータについては、フィンランドにおいてヘルシンキオリンピックを境に悪化した環境効果と、『奇跡の冬戦争』を含む時代において環境リスクが低いことを読み取ることができた。
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