主に、大きく分けて三つの研究成果が得られた。一つめは本研究と密接に関連する、量子通信路を用いた暗号プロトコルに関する結果である。具体的には、情報理論的に結合性をもち計算量的に秘匿性をもつような量子ビット・コミットメント方式の構成を行った。この提案方式により、開示フェーズまでに受信者が保持しなくてはならないビット数を、古典通信路を用いた場合と比較して指数的に減らすことに成功した。 二つめは、電子署名方式と対をなす秘匿通信方式、特に本研究と密接に関わり合いをもつ、量子計算と古典通信路を同時に用いた秘匿通信方式に関する結果である。2000年に提案された既存方式はナップザック暗号とよばれる方式の一種であり、ナップザック暗号に対する強力な攻撃法として密度攻撃とよばれる攻撃法が知られていた。この密度攻撃に耐えるナップザック暗号を設計するには、密度とよばれる安全性の指標を十分高くすることで一般的には十分とされていた。既存方式も密度は十分高く、よって密度攻撃に強いとされていた。しかしながら本研究により、既存方式は、密度が十分高いにもかかわらず、密度攻撃とよばれる攻撃に対して弱いことがわかった。 三つめは、この既存方式の変形することにより、低密度攻撃を回避できる可能性についての考察を行った。この成果については現在投稿中である。 さらに上記以外にも、本研究に関連する暗号プロトコル研究として、短い秘密鍵を用いた場合においても、制限された離散対数問題の仮定のもとで安全性が証明できる匿名グループ認証方式の構成を行った。また、暗号プロトコルモデルの基礎として、Boole回路に関する基本的な考察、具体的には、Boole回路中で用いることのできる否定ゲートの個数を制限したときの回路の深さとサイズの関係について考察を行った。
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