研究概要 |
申請者らは1999年、「スライドレジスタ割付問題の厳密解法」(情報処理学会論文誌)において、スライドレジスタ割付問題が特殊な距離関数の巡回セールスチーム問題であることを論理的に証明した。巡回セールスチーム問題はNP困難な問題であり、厳密解を求めるためには非常に多くの計算時間を要するが、申請者は当該論文刊行後、スライドレジスタ割付問題の緩和問題が多項式時間で解決可能(すなわちクラスP問題)であるという着想を得た。今回、巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem)と割当問題(Assignment Problem)の決定的差異である循環除去条件に相当する条件をスライドレジスタ割付問題から除いたO(N^3)の多項式時間で解ける問題の解を近似解法に応用することで近似精度の向上が認められた。シミュレーション結果では、100程度の変数生存区間をもつループ例題においても数100msecで割付が終了しており、実際のコンパイラへの応用が十分期待できる。なお、本年度発表したシステムでは、パイプライン最適化にこのアルゴリズムを応用している。 また、スライドレジスタ割付問題の類似形であるローテイトレジスタ割付問題が多項式時間で解決可能であるという証明については、条件分岐を含まないループであって、レジスタ番号が繰返しにより1ずつ変移する場合に限って証明が完了している。しかし、スライドレジスタなどレジスタ数の変移が2以上となりうる場合について、あるいは条件分岐を含むループについては、多項式時間解法性,NP困難性のいずれも予想より証明が難航している(現在のところ、多項式時間での解決は難しそうだと考えている)。次年度さらに解析と証明を継続し、一般的なケースについてのP/NP困難性を扱うものとして早期の出版を考えたい。
|