本研究は、三次元形状の変形過程のシミュレーションを、実写映像を用いて再現するを目指すものである。研究の進め方としては、(1)三次元形状の変形過程を計測するためのシステムの設計と構築、(2)変形過程を支配している制約条件や形状固有の性質を抽出するためのアルゴリズムの開発、(3)抽出された種々の制約条件や性質に基づく変形過程の再現、以上の三つのステップを経ることを想定している。昨年度は主に(1)に取り組んだが、本年度は(2)に主眼を置いて研究を進めた。 変形過程などの動的な現象をシミュレーションするための手法としては、有限要素法等を用いて物理現象の離散化モデルを数値的に解くという方法が一般的である。このような方法は、対象となる現象がすでにモデル化されていることを前提としているが、実世界の複雑な現象を対象とした場合には、この前提は必ずしも当てはまらない。そこで本研究では、映像として観測されているデータに対して、比較的簡単な変形モデルを当てはめ、モデルに含まれるパラメータを部分的に推定するというアプローチを取ることにした。具体的には、三次元形状の時系列変化をモーフィング関数として表現した上で、このモーフィング関数を近似する弾性モデルを求めてみた。ここで利用した弾性モデルは、伸び縮みに対して線形な応力を生じるという簡単なもので、部位に応じて剛性パラメータが異なっている。変形過程が準静的であるという仮定のもとに、各部位における内力のつりあいを計算しながら、剛性パラメータを推定する方法を開発した。 来年度は、こうして得られたパラメータが、実際の変形過程を再現するに当たって、どの程度有効なのかを検証することにしている。具体的な変形対象としては、観葉植物や日用品(紙製品や布製品)などを予定している。これらの物体を、仮想空間の中で人間の目で見て違和感なく再現することが当面の目標となる。
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