研究概要 |
静止刺激に対する3次元的な輪郭統合知覚の脳内神経機構について,前年度では両眼視差を与えることで奥行次元において勾配を持たせたガボール・パッチ刺激を用いた心理実験によって調べた.しかし2次元平面においてはガボール・パッチが線分要素の検出を行う方位選択性細胞にとって最適刺激であることが広く知られているが,Hinkle &Connor(2002)の見出したような奥行次元に傾きを持つ線分要素に反応する細胞にとって,立体的なガボール・パッチが最適刺激であるとは限らない.3次元空間内で波長が一定になるようにガボール・パッチをチューニングすると,立体刺激を構成する左右眼両画像内ではx-y平面上での方位に応じて空間周波数が異なる,一方,左右眼両画像において,x-y座標でガボール・パッチの波長が全て同一になるように設定すると,それらの融合視により知覚される3次元空間内においてパッチの描かれる面に沿ってみた場合の空間周波数は一様ではなくなる.どちらが最適刺激であるか定かではない.そこで本年はガボール・パッチの有するバンドパスフィルター特性を利用することをあえて諦め,一部の生理実験や心理実験でよく用いられる単純な線分刺激(輝度が空間的にステップ状に変化する細い線分)を使った3次元的輪郭統合の心理実験を行った.実験は主として2つのタイプに取り組んだ.1つ目の実験ではField et al.(1993)の2次元path-paradigm実験(位置・方位がランダムなガボール・パッチ群に含まれる,位置・方位がスムーズな曲線に沿ったガボール・パッチ群の検出課題)の刺激に使われるガボール・パッチを単純線分に置き換え,かつ各線分に両眼視差を与えた刺激の実験である.奥行が一方の端から他方の端へ線形変化する大域的輪郭は,それを表現する各線分の視差勾配が大域的輪郭に合致したもののほうが逸脱させたものに比べ,差はそれほど大きくないものの検出の正答率は高くなった.この結果には左右眼各画像内での大域的輪郭の2次元x-y平面上の共練性が影響している可能性も考えられる.そこで2つ目の実験として奥行次元においてのみ共線的・非共線的の区別がなされるような,全ての線分要素が水平方位を持つ3次元線分刺激による輪郭検出課題を行った.その結果,3次元的に共線的な配置の輪郭の検出が,そうでない輪郭に比べ検出率がかなり高くなった.この結果は奥行次元における共線的結合の存在を示唆するものである. この他,輪郭に対する図の存在領域側を検出する神経回路モデルや,視覚刺激中の対称軸を検出する神経回路モデル,RDK(特にLPD)刺激に対する運動統合知覚機構に関する心理実験の研究の成果も上がっている.
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