本研究は生体の脳内で実験的に観察されている振動・同期・カオス現象に着目し、それらを「ダイナミカルな振舞いを見せるニューラルネットワーク」というキーワードでモデル化することによって理解し、さらにそのデジタルハードウェア化をも視野に入れた研究を行っている。 本年度はハードウェア化については来年度以降の目標として文献調査を行うにとどめ、「振動・同期・カオス現象」のモデル化に絞って研究を進めた。具体的にはパルスニューロンをactive rotatorと呼ばれる位相モデルでモデル化し、それらの興奮性集団と抑制性集団を全結合したネットワークの解析を行った。このモデル化は、系の振舞いをFokker-Planck方程式で記述できる点に特色があり、これにより系の力学的な分岐現象を全て理解できるようになった。このモデルを解析することでさまざまな振動・同期・カオス現象が観測されたが、これらは生体内との関連から非常に興味深い。特に「単一素子では観測されないが、素子集団においては観察される弱い同期振動」は視覚野や海馬において報告されている振動現象に近く、今後の生理学実験などのデータとの対応づけが期待される。 このモデルは系が一様であると仮定しているが、系に構造を入れた場合の振舞いについても解析を続けることで、振動・同期・カオス現象への理解がさらに深まり、これらの現象の脳内における意義の理解への足掛かりとなることが期待される。また、これらの知見にもとづいたハードウェアの開発も来年度以降の課題である。
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