研究概要 |
平成14年度の研究により得られた成果は以下のとおりである. 1.審美的効果の調査・分析 比喩研究に関する文献を調査し,審美的効果(または詩的効果)に,自然さ,美しさ,形式さ,面白さなどの要因が関係することを把握した.さらに,美学に関する文献を調査し,美的質・美的範疇に関するさまざまな要因が提案されていることを確認した.なお,本調査は現在も継続中である. 2.審美的効果の喚起に関係する認知的要因・機構の検討 (1)修辞表現の審美的・詩的効果の喚起過程の認知機構として以下を提案し,どのような比喩やアイロニーが審美的効果を喚起しやすいかを説明した. Step 1.言語表現に内在するずれによって多大の処理労力(負荷)が生じる. Step 2.ずれを十分に解消することができるくらいの豊かな解釈が生成される. Step 3.その解釈は,解釈の主体が何が起こったか判断できないほと,一瞬のうちに生じる. さらに,これらの認知機構が,ユーモアの面白さの認知機構および文学性の概念と密接な関係にあることを論じ,文学の鑑賞過程の統合的な理論体系の可能性について考察した. (2)比喩理解モデルと上記の喚起機構を統合するための試みとして,WWWを用いた質問紙法による心理実験を行い、比喩解釈に現れる創発特徴(たとえる概念やたとえられる概念では顕現的でないが,比喩の意味では顕現的となる特徴や属性)や比喩解釈のばらつき具合(エントロピー)と,比喩から喚起される詩的効果の度合いに相関があるという結果を得た. 平成15年度は,上記1に基づくさまざまな要因が審美的効果に及ぼす影響を心理実験により調べるとともに,喚起機構に関するオンライン実験や,比喩理解と比喩鑑賞(審美的効果の喚起過程)を統合した認知・計算モデルの構築を行う予定である.
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