本研究は、進化計算法における系の構成要素のミクロレベルでの相互作用から生じる系全体でのマクロレベルの秩序形成という創発現象の性質を理論と実験の両面から明らかにすることを目的としている。今年度はその基礎として、ミクロ-マクロ相互レベルの関係について研究を進めた。 1.ミクロ→マクロの関係 「血縁淘汰」として知られる個体間の協力・協調による問題解決の仕組みをパターン分類系の評価基準を例として進化計算法に取り入れて検討した。具体的には、パターン分類系における構成要素間の相互作用に基づく評価基準として、ベクトル量子化クラスエントロピー(VQCCF)を提案した。この評価基準は構成要素間の「相性」等を考慮に入れることでミクロレベルの評価からマクロレベルの秩序形成を導くものであり、従来用いられていた単独構成要素のみによる評価とは大きく異なるものである。 2.マクロ→ミクロの関係 マクロレベルの秩序がミクロレベルの個体行動に影響を与える一例として「相関選択」があるが、上記のVQCCEに基づく進化計算法の中に相関選択を導入し、個体集団の秩序が各個体の行動に与える影響について考察を進めた。 実験面においては、VQCCEに基づく進化計算法の一つの発展例として、パターン分類のための遺伝的ブースティング法を提案した。同手法は、従来から用いられてきたブースティングのアルゴリズムにVQCCEによる評価基準を取り入れたものである。いくつかのテスト問題についての実験から、遺伝的ブースティングは従来法に比べて高い精度を実現できることを示した。なお、これらの実験においては本補助金によって導入したワークステーションを使用した。
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