研究概要 |
本研究の目的は,工学的問題解決における人間の負担軽減のため,人間だけが有する特異な能力であるところの"創造性"を計算機上に実現することである.本年度は「発散的思考」と「収束的思考」という二つの相互に関連する思考による創造性の実現という近年の哲学分野における代表的な考え方に基づく数学モデルの構築と,これの計算機上での実装を行った. 数学モデルでは,Goguenらが提案した代数的記号論を用いた.まず,思考の対象となる概念によって定義される空間を記号系により定義し,「発散的思考」と「収束的思考」をその上での異なる2種類の変換として定義した.これは,基本的計算手法によらず計算機上に創造性を実現するための重要な基礎となると考えられる. 続いて,この数学モデルに基づき,基礎的計算手法として強化学習を用いた場合および遺伝的アルゴリズムを用いた場合について,創造性実現のための計算手法を実装した.この成果については研究発表の1件目及び2件目において発表している. 現在,これらの実装の有効性検証のため,実際的な工学問題として4足歩行ロボットの歩行軌道の獲得問題への適用を行っている.歩行ロボットの機構や制御については数多くの研究がなされているが,制御目標となる歩行軌道は試行錯誤すなわち人間の創造性に依存して決定されており,提案手法の有効性を検証する適当な問題だと考えた.研究発表の3件目はこれの初期段階における成果を報告したものである.まだ検証は十分でないものの,これまで人間が行ってきた創造的作業を計算機に支援させることの有効性を示す結果が得られている.
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