双方向型計算様式に基づいた時系列予測とは、本来の順時間方向の信号変換系(現在→未来)と新規に導入した逆時間方向の信号変換系(現在→過去)の間の情報統合によって、予測精度の改善を図る手法である。これまでの結果を総合すると、概して、従来法の"一方向型"よりも提案法の"双方向型"の処理の方が優れているようであるが、最大の懸案事項「なぜ時系列処理能力が改善するか」については未だ不明な点が多かった。 昨年度(1年目)は、モデルの内部に保持される情報表現の自由度が増すことで、予測精度の向上に結び付いている可能性を明らかにしたが、これを受けて今年度(2年目)は、更に突っ込んだ検討を試みた。 まずは、上で述べた情報表現の自由度であるが、神経回路モデルの学習時間と伴に一方的に増加するのではなく、学習が進行する区間で増加し、学習が停滞している区間では逆に僅かながらも減少していることを明らかにした。これは、学習の際には多くの"きっかけ"を必要とするが、一度身に付けてしまえば、不要なものを削除していると解釈できるであろう。また、制御工学的な観点に立てば、順時間方向と逆時間方向の信号変換は、それぞれ"プレディクション(予測問題)"と"スムージング(平滑問題)"に類似した信号処理とみなせる。そのため、提案手法は、時系列予測という同一の課題に異なる手法(例えば、短期的な予測と長期的な予測というような役割分担など)でアプローチし、両者のメリットを予測精度の改善に結び付けている可能性が示唆された。 ところで、「研究は発表することによってその成果を社会に還元できる」とは、かつての指導教官の言葉である。この言葉を念頭に、これまで同様、研究成果の詳細については、現在、ホームページ(http://www.sens.ee.saga-u.ac.jp/wakuya/)で公開中である。
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