研究概要 |
本研究では,仮説形成・仮説検証過程の特性を調べるために,特定の物理現象をシミュレートする仮想実験環境(マイクロワールド)を構築した.ここでは,対象とする物理現象として,音響減衰現象を利用した.このマイクロワールドを利用し,外的資源の有無による科学的発見の過程における差異を明らかにすることを試みている. ここで作成された音響減衰現象のマイクロワールドでは,シミュレーションの対象とする装置を,長さと太さを任意に設定できる4つのパイプをつなげたものとした.これら4つのパイプのそれぞれの長さ・径を設定することで,特定の周波数に対する減衰量が決定される.この装置の設計は,音響工学の研究において,実際に取り組まれた課題である. マイクロワールドはJava言語によって記述され,グラフィカルなユーザインタフェースをもつ.インタフェース部は「数値入力部」「パイプ図出力部」「減衰量出力部」「グラフ図出力部」「入力値履歴参照部」「パイプ図・グラフ図履歴参照部」の6つの部分から構成されている.被験者は,課題として与えられた条件をみたすような減衰量パタンを示すパイプ形状を探索する. 評価実験は大学生4名に対して個別に実施した.被験者に与えられた課題は「40kHzを境に,減衰量が40dB以上となるパイプ形状を求めること」であった.入力値はログとして記録され,ログに基づいた分析を行った.n回目の入力とn+1回目の入力とで,入力値が変更された項目の数を「変更項目数」とした.また,変更された項目に対する変更量の平均を「変更量の平均」とした.試行回数を100回毎に分け,それぞれの指標を比較したところ,課題を達成した被験者では,平均変更項目数・平均変更量ともに,実験の進行に合わせて減少していく傾向が見られた.また,被験者の発話を記録したところ,被験者は,課題をいくつかの副課題に分割し,徐々に副課題を達成していくような方略をとっていたことが明らかとなった.
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