本研究では、音源の動きの知覚について取り上げ、複数の音源が存在する環境における動き知覚の特性を明らかにするため、今年度は動き知覚を伴う音事象が1つ提示された場合と、2つ提示された場合での、ターゲット音の動きと動き方向の知覚について検討した。 動き知覚を伴う音事象の最初と最後の位置情報のみを与える仮現運動と、両耳間レベル差情報も含めて音事象が提示される合成音像の2つの提示方法を用いてターゲット音の動きと動き方向の知覚特性について実験を行った。その結果、音事象が2つ提示されると、1つ提示された場合よりも動きと動き方向の正答率は15%程度低下する。2つの音事象は被験者によって、音色的、時間的、空間的に、個々の音事象を分離して知覚された条件を用いたにも関わらず、ターゲット音の動き方向を正確に知覚することは難しいことが分かった。このことから、音事象そのものの特徴知覚と、動き方向知覚では、知覚過程が異なることが示唆される。 2つの提示方法で得られた結果に有意差が見られなかったことから、2つの音事象が提示されるとき、両耳間レベル差はこれらの知覚に影響を与えていないことが示唆された。 2つの音事象のonset時間に差を与えると、信号検出理論を用いて得られた「動」「静」の判断基準値βが変化することが分かった。β値は、特にターゲット音「静止」条件において、非ターゲット音の動きに関わらずonset時間差が長くなるほど「動」の判断領域が広くなることから、「動」の知覚が容易になることを示している。静的音事象に対する知覚は、動的音事象に比べて、かなり曖昧に知覚されることを示した。今後は、2つの音事象が提示されたときの知覚過程についてさらに検討を進めていく。
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