研究概要 |
本研究は,知的人工物と人間との日常的な生活環境の中での自然なコミュニケーション実現を目指し,知的人工物の知性と身体性に対する人間の認知的姿勢に基づいた適切なコミュニケーション環境モデルを提案することを目的としている. 平成14年度は,日常的な利用形態におけるコンピュータや擬人化エージェントに対して人間が,それらが示す知性をシステムのどの領域に帰属させているか,すなわち自分と関わり合っていると見なしている社会的存在としての人格性がどこに帰属されているかを心理実験を通して明らかにすることを目標とした. そこでまず知的人工物(擬人化エージェント)が示す知性を「見る」「聞く」「話す」という3つの能力に着目した.コンピュータの画面上に表示された擬人化エージェントは,目や耳,口がCGとして表現されているが,これらはあくまでも表示されている画像であり実質的には機能しないことは明白である.それにも関わらず心理実験で被験者は,画面上の擬人化エージェントの「手元の小物を見せてほしい」という要求に対して,直接画面上の擬人化エージェントに対して小物を「見せる」反応を示した.同様にある言葉を言う要求や擬人化エージェントの発話に対する聴取場面においても画面上の擬人化エージェントに対して反応を示した.この実験ではコンピュータの周囲にはコンピュータに直接接続されたカメラやマイク,スピーカがあったにもかかわらずこのような反応が観察されたことから,擬人化エージェントがもつ身体性に基づいた対人的反応を被験者は行なっていたことが示唆された. これらの実験結果から,人間は擬人化エージェントが身体をもつことによってその人格性を強く擬人化エージェント自身に帰属させる傾向があることが明らかになり,この後の研究の展開を支える有益な知見が得られたといえる.
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