地理的な局所性を持った人々を対象とし、そのコミュニケーションを支援する計算機ネットワークの研究を行った。インターネットのような世界的な計算機ネットワークの発達は、さまざまな情報を瞬時に通信可能とした。しかし我々の生命活動や社会活動は通常局所的であり、また運輸や物流の現技術は情報通信と比べて低速で高コストである。従って、通常は居住地域や勤務地域等における近くの商業、サービスや隣人等、地理的な局所性を持った人々と共に生活を行っていると思われる。このような日常生活でのコミュニケーションを支援するためには、その局所性を有効利用可能な手法が必要である。通常のネットワークが光ファイバや電波などのメディアに依存しているのに対し、本研究では日常的に移動するユーザによってデータが運搬される点が大きな特徴である。すなわち、送信元にあるデータはユーザの保持する二次記憶装置に複写され、ユーザの移動後さらに受信先に複写されるため、送信元より受信先へデータ通信が可能となる。 本年度はこの複写に用いる通信メディアとして、PAN (Personal Ad-Hoc Network)と呼ばれる局所的な機器間計算機ネットワークを導入した。PANは本来、近距離を結ぶ無線メディアによっておよそ1メートル内程度の機器を接続し、あたかも自分の機器であるかのように便利に用いるものである。本研究では、このPANの通信範囲がプライバシの泡(the bubble of privacy)と呼ばれ、親しくない他人の侵入を拒絶する空間とほぼ一致していることを利用する。すなわち、ユーザに携帯端末を持ち歩かせれば、日常的に出会いコミュニケーションを行う者の携帯端末は他人のPANサービスエリアに侵入することが多く、従って各々の携帯端末同士が頻繁に通信を行う機会が多いと考えられる。微弱電波を用いた通信機器でPANを構成し、同じ興味をもつ人々のコミュニケーションを支援するプロトタイプを構築した。
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