研究概要 |
待ち行列システムの性能評価に用いられることが多いマルコフ型到着過程について理論的に研究した。特に任意の時間中に到着する客数分布についてのモーメントを計算する新たな手法を検討した。従来マルコフ型到着過程に対する到着客数分布のモーメントを計算する手法では、到着客数分布についての確率母関数の導関数を評価する必要があるため計算が煩雑になり,、特に高次モーメントの表現については見通しのよい形式では得られていなかった。本手法は確率母関数の導関数を求めるのではなく、到着客数分布について成立する微分方程式を直接解くことによりモーメントを評価する。本手法を使えば高次モーメントの計算についても系統的に構成することが可能となる。本手法が適用できるマルコフ型到着過程のクラスは限定されているものの、通信システムの性能評価で頻繁に用いられるマルコフ変調ポアソン過程や断続ポアソン過程など、応用上重要な多くの確率過程を含んでいる。また、本手法を用いることでマルコフ型到着過程に対する到着客数分布のモーメントのみならず、任意の時間中に到着する客数分布自身についても陽な表現を構成することができる。その応用としてコールセンタなどを想定した待ち行列システムを解析し、特に客の待ち合わせ放棄のある場合を検討した。客が待たされている場合にサービス中の客のサービスが終了する間隔をマルコフ型到着過程でモデル化し、客が待っている間にサービスを受けずにシステムから退去する確率を近似的に評価した。待ち合わせ放棄時間分布の例として対数正規分布を考え、本手法を用いて計算した客の待ち時間の期待値や呼損率を評価し、シミュレーションと比較検討した。その結果、対数正規分布の変動係数が1より小さい場合は、本手法を用いる方法でも近似精度が実用上十分であることを確認した。
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