今年度は、証券取引市場における市場慣行が価格形成に与える影響について研究してきたが、科学研究費交付により、以下の2点において一定の成果を得たので報告したい。 第1に、市場慣行が価格に及ぼす影響についてである。証券会杜で働く人々に対してヒアリングを行った結果、テクニカル分析の中でも特にキャンドルチャートを中心に市場予測を行う実体が判明した。そこでそうした市場慣行が本当に市場に影響を及ぼしているのかどうかについて、ニューラルネットワーク(特にバックプロパゲーション法)を使って検証した。その結果、仮説の検証において非常に有意な結果が得られた。これは現段階において、「Applying Neural Networks to the Extraction of Available Investment Information from the Previous Day's Stock Market」という論文としてまとめ、関西大学法学研究所の雑誌に発表している。 第2にMulti Agent Approachを使って資産価格ジャンプを解読する方法について一定の成果を得た。方法としては、自律型のagentをトレーダーとして複数作成し仮想金融市場を構成した、そこでagentにトレードを自律的に行わせていきながら、現在のモデルでは解明できない要因(経済的諸要因に起因しない資産価格のジャンプの理由等)を探った。この研究は以前から行い仮説を構築していたものの、これまでに提示する命題の証明ができなかったために公刊論文として発行できなかった。今回完全証明ではないものの、シミュレーションによって自分の仮説を一定水準証明でき、それをまとめたうえ、論文を公表することが可能となった。 以上の研究成果をもたらしてくれた科学研究費補助金の交付に対して、深く感謝申し上げたい。また来年度も引き続き有意な成果を提示していくよう努力したい。
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