原子力と社会の相互作用過程の解明は、人・社会と調和する原子力システムの構築にとって重要である。本研究では、原子力に対する社会受容性をマルチエージェントモデルで定式化し、シミュレーション解析により、その特性を把握することを目的としている。 マルチエージェントモデルによる社会シミュレーションは、社会現象に対する新しい解析ツールであり、システム内の個々のエージェント(本研究では社会構成員)の自律的挙動をマクロ的構造形成の基礎としている点において、従来のマクロ的支配方程式を基礎とするアプローチと対照をなす。個々のエージェントの多様性を考慮可能であること、多数のプロセスを同時に導入できることなど、従来の解析手法に比べモデル構築上の自由度が大きく、さらに、既往の人文・社会科学分野で得られている認知心理学的知見などをモデルに取り込みやすい。 本年度の研究では、1)固有の原子力風土を有する社会における原子力世論の形成プロセスを、国、企業、地域コミュニティーなどからマスメディア等を通じて発信される原子力情報の社会構成員による認知、交換、伝播過程とみなし、2)個人により認知された原子力情報が、社会コミュニケーションを通じて伝播しながら個々の構成員の原子力好感度に影響を及ぼし、マクロ的な原子力受容度が形成される過程をマルチエージェントモデル(人工社会モデル)により定式化した。さらに、いくつかの仮想社会についてシミュレーション解析を実施し、対象社会のサイズの影響、定常解の経路依存性、エージェントの多様性の影響、収束特性等に加えて、社会ネットワーク構造や認知心理的ファクターなどが原子力世論のマクロ特性に及ぼす影響についての基礎的な知見を得た。
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