研究概要 |
1.現有の最大3.8kG発生可能な磁場コイルと真空容器(内直径16cm,長さ200cm)を整備し、温度を600℃程度にまで加熱することのできる円筒状オーブン(内直径10cm長さ30cm)とその内側に、ドーナツ状の電子ビーム源(内直径8cm外直径9cm)を設置した。円筒の出口にはドーナツ状リミタが設置されており、電子ビームはここで終端する。電子ビーム中に昇華させたフラーレンC_<60>を導入すると、高エネルギー電子衝突によりC_<60>^+が、低エネルギー電子付着によりC_<60>^-が生成される。磁気フィルター効果によりイオンのみがリミタより下流域に拡散して、電子の存在しないペアナノ分子イオンプラズマの生成を実現することができた。 2.タングステン線を2000℃以上に加熱して熱電子を放出させ、この熱電子を電界加速することによって電子ビームを作り出している。フラーレンが高温のタングステンに接触することにより、仕事関数とイオン化ポテンシャルの関係から接触電離することが新たに分かった。この接触電離現象により、より多くの低温度正イオンを作り出すことが可能になった。 3.生成されたペアイオンプラズマの典型的なプラズマパラメータは、密度1×10^8cm^<-3>,イオン温度1eVである。ラングミュアプローブの正負イオン飽和電流を比較すると正飽和電流の方が多いが、空間電位(浮遊電位)はほぼ0V(基準電位)である。ほとんどシース等の電位構造が形成されていないといえる。 4.正負イオンの質量が等しいペアプラズマの独特の基礎特性を調べる目的で、静電的な波動励起実験を行った。通常の電子プラズマ波とイオン音波に相当するモード以外に、イオンサイクロトロン振動に共鳴するモードも観測することに成功した。他のペアプラズマ(電子-陽電子プラズマ)において、これほど顕著で明確な波動特性を実験的に観測した例はない。 ペアイオンプラズマ中で触媒等を用いることなく、複数のフラーレンが共有結合した高分子を直接形成させることを試みた。ペアイオンプラズマ中に金属基板を挿入し、レーザー脱離飛行時間型質量分析器によって、その基板に堆積した薄膜の質量分析を行った。プラズマ生成のための電子ビームエネルギーを変化させることによって、ダイマー及びトリマーの形成を実現することができた。
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