半導体薄膜微細加工、あるいは半導体薄膜堆積に用いられる反応性プラズマ中の高分子気相種検出のための電子付着質量分析法の開発、および他の各種質量分析法などを併用した反応性プラズマ内気相粒子種の全体像の把握を目的とした。プラズマ源には半導体エッチングおよび堆積に頻繁に用いられる電子サイクロトロン共鳴プラズマ、あるいは誘導結合型プラズマを使用した。フルオロカーボンガス(一部実験においてはメタンガス)を原料に用いて、プラズマOFF時に存在する中性高分子種に電子を付着して得られる負イオンシグナルについて調べた。原料ガス分子の負イオン以外に、解離性付着によって生ずるフッ素負イオンなどが観察された。照射する電子のエネルギーを、0から10eVの範囲で変化させて得られる負イオンシグナルのピーク位置と相対強度を、文献データと比較することにより、測定データの妥当性を確認した。このとき、観察された負イオンの最大分子量は原料ガス分子量以下であり、分子間重合はみられなかった。続いて、プラズマON時に同様に電子を付着させて得られる負イオンシグナルについて調べた。同じ質量をもつ負イオンについて、プラズマONおよびOFF時に観察されたシグナルを比較すると、プラズマON時はシグナル強度が全体的に増加し、ピーク位置は最大で数eV程度高エネルギー側にシフトしていた。このことからプラズマ内で分子種がさまざまな状態に励起されるために、電子付着断面積が増加し、付着の共鳴エネルギーが結果的に増加したことが分かった。全体的な傾向として、奇数のF原子を有する負イオンのシグナル強度が、偶数のF原子を有する負イオンより大きかった。このとき観察された負イオンの最大分子量(200-300)は原料ガス分子量より大きく、プラズマ内で分解とともに重合が進んでいることが確認できた。さらにこれら負イオンシグナルの強度は、容器内圧力が高い場合、プラズマ入力が小さい場合、ガス滞留時間が短い場合などに大きいことが分かった。この結果から、中性高分子気相種の生成と消滅のメカニズムを実験的に解明できることが示された。本研究結果は、半導体エッチングおよび薄膜堆積における電子付着質量分析法のその場観察法としての有用性を示すものである。
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