研究概要 |
都市域での肺ガン罹患者数の増加に関連して懸念されている,大気中ガン(変異)原物質の健康影響を明らかにするため,大気中ガン(変異)原物質の生成過程に関する実験室系での検討を行った。多環芳香族炭化水素等の大気の変異原性に寄与が大きい物質の多くは大気浮遊粒子(固相),特に微小粒子に存在し,その生成・分解には粒子表面での気-固不均一過程が重要となる。そこで新変異原物質の検出とその動態解明のために以下の検討を実施した。 ピレンおよびメチル基等の置換基をもつピレンを不活性表面としてのテフロン被覆ガラス繊維フィルターに担持し,二酸化窒素,光存在下または暗条件下での気-固不均一反応を行い,多環芳香族炭化水素の減衰の追跡と生成物の極性画分中の新規含酸素ニトロ化芳香族の検索・同定および定量をガスクロマトグラフを用いて行った。さらにニトロ化物に高感受性のサルモネラ菌YG-1024株を用いた反応生成物の変異原性試験を実施し,変異原性物質の特定を試みた。その結果,置換基を有することで分解性が高くなる一方,生成物には1-メチルピレンから1-ホルミルピレンが生成したように置換基が部分酸化されたニトロ芳香族化合物というた置換基を有する基質特有のものが生成した。このことから既往の研究で検討されてきた置換基をもたない多環芳香族炭化水素以外に置換基を有する多環芳香族炭化水素,特にアルキル置換体の大気動態を検討することが大気中の変異原物質の起源およびその挙動を解明する上で重要であることが示唆された。
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